2010年12月12日日曜日

山口組総本部長を逮捕 狙い通りのトップ3不在

【揺らぐ巨大組織-山口組壊滅作戦】(上)
ようやく空が明るくなり始めた1日午前6時32分、大阪府豊中市。閑静な住宅街に構えた自宅で捜査員から令状を示された男は、淡々とした様子で逮捕に応じた。指定暴力団山口組のナンバー3である総本部長、入江禎(ただし)(65)。「逮捕しようと思えば、もっと早くできた」(大阪府警幹部)。時機をうかがい続けてきたターゲットを、大阪府警がついに捕らえた瞬間だった。
関連記事
記事本文の続き これに先立つ11月18日早朝、新神戸駅近くの住宅街の一角を異様な緊張感が覆っていた。1軒の住宅を、京都府警を中核とした捜査員約140人が取り囲む。やがて数人が屋内に踏み込むと、山口組ナンバー2の若頭、高山清司(63)は配下の組員がぐるりと周囲を固める中央にじっと座っていた。みかじめ料名目で4千万円を脅し取ったとする恐喝容疑の逮捕状が読み上げられると、ただ一言、「そんなの関係ない」と答えたという。
神戸市を本拠地とする山口組で は代々、関西を地盤とする最高幹部が運営の実権を握ってきた。しかし、平成17年7月に6代目組長となった篠田建市(68)=通称・司忍=は、自身の出身 母体で名古屋市が本拠である弘道会会長の高山を若頭に登用。「非関西」ということだけでなく、同一組織の出身者がナンバー1、2を占めたのも山口組の歴史で初めてだった。しかもこの年の末、篠田は銃刀法違反罪による懲役6年の刑が確定、収監されトップ不在となる。
 だが高山は異例づくしの状況に、強引ともいえる手法で臨んだ。不満分子とみられた直系組長らを相次いで絶縁。篠田の代理として巨大組織を取り仕切ってきた。
一方の入江は高山の若頭就任と同時期に総本部長に就任。弘道会が勢力を急速に伸長させていく中、「関西代表」として他の直系組長らとの間の緩衝材としての役割も担ってきた。
高山の逮捕後は幹部の間に広がる動揺を収拾。高山に代わって山口組を切り盛りしていくとみられていた。その矢先の逮捕について、冒頭の大阪府警幹部は言う。
「京都府警が高山を逮捕するのをずっと待っていた。入江を逮捕するなら、実質トップになってからの方がはるかに組織に与えるダメージは大きいやろう」

来年4月に迫る篠田の出所を前に山口組の弱体化を目指す警察当局は、トップの3人を不在にする状況に追い込んだ。両者の攻防を追う。
=呼称略
山口組取材班)
(中)なぜ弘道会は「狙い撃ち」されるのかに続く

なぜ弘道会は「狙い撃ち」されるのか

【揺らぐ巨大組織-山口組壊滅作戦】(中)

指定暴力団山口組ナンバー3の総本部長、入江禎(ただし)(65)の逮捕翌日となる2日午前、警察庁長官の安藤隆春は国家公安委員会後に記者会見に臨んだ。「組長と若頭が不在の中、山口組の組織運営の中心を担っていたナンバー3の総本部長を逮捕したという点で、重要な意味を持つ」と、大阪府警による今回の逮捕を評価。そして、こう言葉を継いだ。「まさに、これまで全国警察が一体となって取り組んできた集中取り締まりの成果だ」
関連記事
記事本文の続き 弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団の弱体化はない-。昨年6月に就任した安藤は山口組、とりわけ組長の篠田建市(68)=通称・司忍=とナンバー2である若頭の高山清司(63)の出身母体の弘道会の取り締まりに傾注してきた。服役中の篠田に代わり高山が山口組を取り仕切る中、来年4月に篠田が出所すると、弘道会による山口組支配が盤石になってしまうとの危惧(きぐ)があったからだ。
警察当局が弘道会を警戒する最大の理由は、その警察に対する強硬姿勢にある。警察に会わない▽事務所に入れない▽情報を出さない-の「3ない主義」を徹底しており、ある捜査幹部は「このまま弘道会支配が進むと、山口組の不透明化がさらに深まる」と懸念を示す。
  警察当局は「こうした状態は日本の治安に重大な脅威になる」として、昨年10月から弘道会頂上(壊滅)作戦を展開。各都道府県警が争うように捜査を進めた 結果、これまでに摘発された直参(じきさん)と呼ばれる直系組長は26人、弘道会直系組織幹部は48人に上った。直系組長の逮捕者には、山口組内で最大の構成員を持つ山健組の組長(62)など、総本部長に次ぐポストである若頭補佐も含まれる。その総仕上げともいえるのが、京都府警による高山、大阪府警による入江の逮捕だった。
「高山の身柄は、のどから手が出るほど欲しかった。警視庁や大阪府警も同じ気持ちなのでは。われわれは9月に山健組組長ら7人の直系組長を逮捕したが、京都府警に逆転負けさせられた心境だ」と複雑な胸の内を打ち明けるのは、山口組総本部を管内に持つ兵庫県警の幹部。一方で、「今回の逮捕を機に山口組の内部がごたごたしてくれれば、いい事件を新たに組み立てられるはずだ」と期待をにじませた。=敬称・呼称略(山口組取材班)
(下)トップ3不在 「頂上作戦」の次は…に続く

山口組、トップ3不在 「頂上作戦」の次は…

【揺らぐ巨大組織-山口組壊滅作戦】(下)
対照的な情景だった。指定暴力団山口組ナンバー3の総本部長、入江禎(ただし)(65)が逮捕された今月1日朝、神戸市灘区の山口組総 本部の周辺は静かなままだった。逮捕から数時間が過ぎても時折、高級車が出入りするだけ。11月18日午前5時、ナンバー2の若頭、高山清司(63)が逮 捕された際には、1時間もたたないうちに「直参(じきさん)」と呼ばれる直系組長が続々と参集し、騒然としたにもかかわらず、だ。
関連記事
記事本文の続き 「総本部に集まれと指示する人間すら、もういなくなった」。捜査関係者はこう見る。組長の篠田建市(68)=通称・司忍=の服役中に留守を預かる幹部を次々と逮捕し、組織を弱体化させる。その狙いが功を奏した結果だというのだ。
しかも高山の場合、4千万円の恐喝容疑のうち500万円分の共犯とされた組員には、懲役4年の判決が言い渡されている。高山が起訴され有罪になれば、これ 以上の服役は免れない。弘道会に詳しいジャーナリストは「高山は10月中旬に府中刑務所で篠田と面会している。自身が逮捕されることをうすうす分かっていて、今後の体制を相談したのではないか」と話す。
 だが、このまま山口組を壊滅へと追い込んでいけるのか。
警察当局はこれまでも繰り返し「頂上作戦」を展開してきた。古くは昭和39年に始まった第1次作戦。4代目組長の人選をめぐる昭和59年の山口組分裂も、壊滅の絶好の好機ととらえた。平成9年8月に若頭だった宅見勝=当時(61)=が射殺された事件の後は、後継若頭の有力候補と目された篠田をはじめ、若頭補佐3人を相次いで逮捕。8年近く若頭不在の状況を作り出した。
にもかかわらず山口組は今も存在し、変わらず国内最大の暴力団であり続けている。関係者は「一時的に動揺することはあっても、われわれの組織も、資金源もなくなることはない」と豪語する。
長年、山口組を追い続けた警察OBは「最高幹部を次々に逮捕するという見えているところをたたく捜査から、資金源など見えないところに手を突っ込む捜査に変えられるか。それがカギだ」と指摘。そのためには、「司法取引や通信傍受などの捜査手法を機能させなければ」と訴える。
入江逮捕の後、大阪府警の幹部は苦笑を浮かべこう話した。「次のターゲット? わしらは打ち出の小づちを持ってるわけやないんやで」。だが、構成員1万9千人の巨大組織との見えざる闘いは、きょうも続けられている。=呼称略
山口組取材班)

 

 

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿

フォロワー

ブログ アーカイブ