2010年12月12日日曜日

山口組組長の出所まで1年弱…勢力増す弘道会の動きは?

【疑惑の濁流】国内最大の指定暴力団山口組(神 戸市)の6代目組長とナンバー2である若頭の出身母体「弘道会」が、同組内部の事実上の支配強化を進めている。警察庁が行った暴力団情勢の分析結果では、 弘道会が非弘道会系幹部らを引退に追い込むなど勢力を拡大。警察への対決姿勢や巧妙な資金源獲得活動などから、警察庁では「重大な社会的脅威」と位置づ け、弘道会とその傘下組織の集中取り締まりを全国の警察に指示した。山口組組長は現在、銃刀法違反罪で服役中で出所まで残り1年弱。警察当局の警戒が強まる中、出所後に暴力団業界再編につながる大きな動きはあるのか-。

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記事本文の続き ●出所まで1年弱
「6代目の出所までのあと、1年弱の間は大きな動きはないのではないか」
山口組に次ぐ勢力の指定暴力団住吉会(東京)の系列組織の幹部が、声を潜めて今後の暴力団情勢について語った。
住吉会系幹部が話す「6代目」とは、弘道会出身の山口組組長、司忍受刑者を指す。司受刑者は銃刀法違反罪で服役中で、平成23年4月に刑期満了で出所が予定されている。6代目体制に移行した山口組は、全国各地の暴力団組織と友好関係を結ぶ「杯外交」を進めてきた。しかし、一方で一部の暴力団組織とは関係をもっていない。
 東京を主な拠点とする住吉会は、山口組との友好関係を保つパイプがないとされている。こうした状況のなか、山口組はこれまで、住吉会に強硬姿勢を取ってきた経緯がある。
平成19年2月には東京・西麻布で、縄張りを巡るトラブルから住吉会系幹部が山口組系幹部に射殺される事件が発生した。多くの人が行き交う首都・東京の繁華街で起きた射殺事件は、大きな衝撃となった。直後から、関係する暴力団事務所の玄関ドアなどに向けた発砲事件が相次ぎ、緊張が高まった。
しかし、警察当局の厳しい取り締まりなどで、その後は大きな対立抗争事件などは発生していない。
警察当局は、「取り締まりが奏功しているというよりは、大きなトラブルがないからではないか。山口組と住吉会の間には、今は大きな火種がないだけで、火種が再燃すればいつ抗争が起きるか分からない」と警戒を続けている。
●弘道会の山口組支配
警察当局が神経を尖(とが)らせる弘道会について、非弘道会系の山口組系幹部は、「とにかく弘道会は情報を取るのが早い。シノギ(収益)になる話は当然として、何でも早い」と情報収集力が組織の力にも現れていると説明する。
山口組内部でも、不穏な動きをいち早く察知してすぐに手を打つ」と内部での支配力を強めている実情を解説する。
平成20年10月、山口組内の有力組織「後藤組」(当時)の後藤忠政組長が除籍になる処分が出された。ことの顛末(てんまつ)は、山口組を弘道会が事実上、支配している事態に批判的な後藤組長に同調する直系組長らの動きを弘道会が事前にキャッチし、機先を制して処分を出すことで大きな問題になる前に収め、さらに支配を強めた経緯がある。
非弘道会系の山口組系幹部は、「弘道会には非公然の諜報(ちょうほう)活動を行う情報収集組織がある。この組織が、対警察、対他組織(暴力団)の情報を収集している」と説明する。
諜報活動については、警察当局も、「弘道会は暴力団犯罪を担当する捜査員の個人情報を集めている。捜査員の自宅住所はもちろん、家族構成などを組織的に調べている」と懸念している。
捜査員を心理的に圧迫する行為として、弘道会系組織を家宅捜索しようと、警察当局が事務所に到着すると、玄関に家宅捜索の責任者の幹部捜査員の家族の写真 が貼(は)られていたことがあったという。「捜査幹部のプライベートを把握しているぞ」というメッセージとして、警察当局にとっては陰湿な威圧行為として 受け止められている。
このほか、意図が不明な不気味な接触もあったという。「ある暴力団犯罪の捜査員の息子さんが町中で実名で名前を呼ばれ、全く知らない男性から頭をなでられた」。警察当局にとっては、これも弘道会系の組員による威圧行為と認識されている。
●異例の取り締まり指示
「警察活動に対する各種調査を行ったり、取り調べや家宅捜索時に徹底した抵抗を示すなど、対決姿勢を強めている」
警察庁の安藤隆春長官は平成21年9月、弘道会について全国の警察の暴力団犯罪捜査担当幹部に対して語気を強め、集中取り締まりを指示した。弘道会は山口組に約90ある直系組織(2次団体)のひとつ。警察庁長官が、指定暴力団の2次団体を名指しして捜査の強化を指示するのは異例だ。
安藤長官は「巧妙な資金獲得活動は、看過し得ない重大な社会的脅威」とも指摘。諜報活動についても、「捜査員に対して心理的な圧力をかけることもある」と強調している。
警察庁が行った暴力団情勢の分析では、昨年末時点の暴力団構成員と準構成員の合計は、前年末より1700人減の8万900人。このうち山口組は、45・0%を占めている。住吉会と3番目の勢力の稲川会(東京)を含めた指定暴力団主要3組織の合計は、72・4%と寡占状態となっている。
山口組は1年間で約1600人減り約3万6400人となっているが、弘道会系は約4千人で変化がなく、非弘道会系の力がそがれ弘道会系が拡大している実態が、警察庁の分析で明らかになった。
●稲川会とは友好関係
住吉会に対してはかつて強硬姿勢を取り、現在は表面的には平穏な姿勢の山口組だが、稲川会とは以前から最高幹部が友好関係にあるとされている。
稲川会は故稲川角二総裁が昭和20年代中期に設立。歴代最高幹部が山口組最高幹部と友好関係を維持してきた。その稲川会の角田吉男・4代目会長が、今年2月に死去した。横浜市内の稲川会館で行われた葬儀には、山口組若頭の高山清司・弘道会会長をはじめとして、全国各地の友好関係にある暴力団幹部らが参列した。
角田会長の死去に伴い、稲川会ナンバー2の清田次郎理事長が4月、稲川会5代目会長に就任した。清田会長は、稲川会の中核組織「山川一家」の出身。清田会 長の跡を継いで山川一家トップに就き、その後、稲川会理事長に就任した最高幹部が、弘道会最高幹部と「兄弟杯」を交わしており、以前から友好関係にあると されている。
弘道会による山口組の事実上の支配が進んでいるのと同様に、稲川会の内部でも山川一家の影響力は大きいものとなっている。山口組と同様に、トップの会長とナンバー2の理事長を山川一家の出身者で占めているからだ。
警察当局は「山川一家の力は大きい。以前から今回の人事の見通しはあったが、同じ(2次団体の)組織から会長と理事長を出すことについて、(稲川会)執行部を納得させたのは、やはり資金など総合的な力の差ではないか」と分析している。
●地下潜行状態の暴力団
首都圏では東京・西麻布の射殺事件以降、大きな対立抗争事件は発生していない。警視庁が平成21年12月に、射殺事件の実行犯として山口組系幹部らを逮捕したことで、一応の決着となった。
しかし、今後については、警察当局は「暴力団は特有の理屈で動く本質は変わらない。引き続き警戒は必要」と話す。対立抗争事件が沈静化している傾向の大きなポイントとして「暴力団対策法の改正で、対立抗争事件などが発生した際に、組織のトップにまで責任を問うことが可能になった『使用者責任』の規定が大きいのでは」と指摘する。
この点について、山口組系幹部も「使用者責任は (暴力団にとって)重い。我々の内部でも勉強会を開いて、対策を研究している」と明かす。さらに、「最近は、『とにかく、けんかはやめろ』というのが上層 部のご意向。けんかするなら、『やられて来い』とまで話す幹部もいる。なぜなら、こちらに犠牲者が出れば、手打ち(和解)の際に、相手の組織から金を取れ るから」という。
住吉会系幹部も「最近は、相手の事務所の玄関や窓ガラスへの発砲など、ちょっとした事件でもすぐに懲役刑。割に合わない。この程度で懲役に行っても構わないという、若い衆はいない。けんかは損」と強調する。
●6代目出所後は不透明
住吉会系幹部が指摘したように、「6代目が出てくるまで」の間は、対立抗争事件などの大きな動きはないかもしれない。しかし、この幹部は、「その後は分からない」と危惧(きぐ)の念を示している。
表面的には平穏な様子だが、山口組組長の出所をめぐり、警察当局と3大組織をはじめとした全国の有力暴力団組織の間で、水面下での情報収集、諜報活動は今後、さらに活発化しそうだ。
(暴力団幹部の名前は一部、通称名)

 

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